新しい言葉は浮かんでは消えていきますが、中にはしっかり日本語に根を下ろすものがありますね。
キャッチ―な言葉で人の印象に残るほどその傾向が強いのではないでしょうか。
当ブログでも以前、気になる言葉の代表格として「爆誕」を取り上げてその起源に迫ってみたことがあります。
ところが、このたび爆誕をはるかに超える謎の言葉が出現しました。
それが「マジ卍」。
見た目にもインパクトが大きいこの言葉の由来に迫り、その意味や正しい(?)使い方、さらには日本人の言葉に対する意識までも考察してみたいと思います。
現代日本語に彗星のごとく現れた「マジ卍」の起源は?
そもそも、マジ卍が日本語の語彙として認知されたのは本当に最近。
2017年になって突如SNS上に出現したとされています。
ご多聞にもれず、この言葉も女子中高生の間で使われるようになってから広がっていったようですね。
現在この言葉の出所をつきとめようとする動きはあるものの、だれも具体的な根拠を持って説明できていないようです。
毎日新聞にもこんな記事が掲載される始末でした。
寺を示す地図記号で古くヒンズー教や仏教でめでたいしるしとされてきた「卍」が今、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で若い世代、特に女子高校生により昨年後半から頻繁に使われている。
昨年末には三省堂辞書の編集委員らが選ぶ「今年の新語」の候補にもなった。
ところが流行の起こりは不明で、意味すらよく分からず、専門家たちは頭を抱えている。
(出典:https://mainichi.jp/articles/20180110/k00/00m/040/026000c)
一方で、ネット上ではマジ卍の出所として疑われて(?)いる人物が2人います。
一人が大関れいかさん。
Vineという、わずか6秒間の動画を投稿できるWebサービスで一躍有名になった人です。
海 彼氏の前vs友達の前卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍 https://t.co/Yda2RotmsB
— 大関れいか (@_reikaoozeki) August 26, 2015
こちらは彼女のTwitterですが、たしかに卍の使用度が高い・・。
けどなぜか「マジ」卍ではないですね。
当時、大関さんが女子高生だったこともこの説の信憑性を裏付けています。
そして、もうひとりが藤田ニコルさん。
おなじく女子高生に人気があったことや、テレビでも「マジ卍」を使っていたことからそう言われていますね。
マジ卍の意味・基本的な用法
出所もわからなければ意味もわからないのがマジ卍のマジ卍なところです。
(これも何言ってるかわかりませんね・・・)
マジ卍には大きく以下のような意味があるとされています。
・強い、勢いがある、気合が入っている
・好調である
・かわいい、イケてる
・調子に乗っている、生意気だ
・右翼っぽい
ご覧の通り、意味・用法は肯定的・否定的なニュアンスを両方含んでいてしっちゃかめっちゃかです。
よく言えば「文脈に依存する」ということなのですが、使い方がわからないとホント何を言ってるのか理解に苦しむことになりますね。
ある意味非常に日本語らしいといえばそうなのかもしれません。
ためしに、いくつか実際の使用例も拾ってみましたので併せてご覧ください。
【すごい、勢いがある、という使い方の例】
は、やば。笑
まじでイケパラ!
イケメンって尊いよな🙏
遺伝子マジ卍。ぇ— Kaaaaayo (@kinokayo) 2018年9月5日
【好調、という使い方の例】
しごおわ帰宅マジ卍!
— もげ🐜🍒🌾🌸Ω (@DEVILmoge) 2018年9月5日
【調子に乗っている、という使い方の例】
嶽「今の子は喧嘩強いからなー」
伊吹「だってなんか鉄の物体に乗ってるやつとか追いかけるのにすげー疲れる」
嶽「ほんと、マジ卍。パラリラパラリラうるせぇし。」
顕仁「バイクに追いつけるくらいなら全然お前達の方が強いと思うぞ」
— 讃岐 (@sanuki_75) 2018年9月5日
なお、5つ目の「右翼っぽい」についてですが、これは日本の右翼のイメージと、ナチスドイツがごっちゃになって発生した意味です。
ハーケンクロイツ(ナチスドイツの逆卍マーク)⇒卍という発想になったようですね。
マジ卍に似た言葉は、古文にも英語にもあった!
よく分からないけど何となく日本人同士ではニュアンスで通じてしまう「マジ卍」。
思うに、この言葉にもっとも近い日本語は、古語の「いみじ」ではないでしょうか。
「いみじ」は、古語辞典で意味をひくと「程度がはなはだしいさま」となっています。
ポジティブな意味でも、ネガティブな意味でも用法がありますね。
現代語で言えば「ヤバイ」がこれに相当するかなという気がします。
そう考えると、実は「マジ卍」は、約1,000年ほどの時を経て現代日本語に復活した「いみじ」の直系の子孫なのかもしれません。
いみじくも(!)卍という漢字の古めかしさと力強さがなんとなくそれを物語っていると言ったら言い過ぎでしょうか。
※だからと言って、古文のテストで「いみじ」を「マジ卍」と訳して先生に呼び出されても責任は取れませんので念のため。
実は、こういう言葉の発達のしかたは日本語に限った話ではありません。
英語でも、このように「程度が著しい」という意味の単語が、ポジティブ・ネガティブ両方の意味で使われるようになる事例があります。
“terrific”とか”wicked”(これは最近言わないかも)という単語がそういう例にあたるでしょう。
これらの単語も、もともとは「恐ろしい」とか「不気味だ」というのが本来の意味でしたが、それがいつしか「すごい!」の意味で使われるようになっていきました。
となると、こうした用法の変化は人間の言語にとって共通の事象なのかもしれませんね。
まとめ:まこといみじき、マジ卍
マジ卍の語源と意味をたどっていったら、人間の言語の発達まで話が及んでしまいました。
先ほど出てきた、
・強い、勢いがある、気合が入っている
・好調である
・かわいい、イケてる
・調子に乗っている、生意気だ
・右翼っぽい
というのを踏まえつつ、要は「なんかすごい!」という感情を込めて使うのがマジ卍の正しい使い方のようですね。
きっと、もう千年くらいすると同じような言葉が日本人の頭の中から生み出されるのでしょう。
最初は訳の分からなかったマジ卍ですが、「いみじ」に通ずるものがあると思うと、ちょっとは身近に感じられるような。